開発部のコラム 3 (2005. 2. 15)

今Arias of The 18th Century
邦題:テレサ・ベルガンサ 18世紀歌劇アリア集

Teresa Berganza mezzo-soprano
Orchestra Of The Royal Opera Hause Covent Garden
Alexander Gibson conductor
Roger Hagger Bassoon
Millicent Silver Harpsichord

ことの発端は Phase Techのお客様へアナログレコードの良さを 知って頂こうと、鈴木のコレクションの中からこのレコードをCDRで 聞いていただいたことから始まりました。
このCDRは日本盤のロンドンレコード(キング)SLC2426を 弊社のP-1,EA-1を使い、スタジオユースのJVC K2 A/Dコンバーター を通してリニア20bitを16bitに畳み込んだデータでCDRにしたものです。
できる限りアナログの良さを損なわないように配慮して作られています。

ある日、お客様から「私の持っている(同じ)レコードの方が音が良い」というご連絡を頂きました。 同じレコードであれば、いくら高品質の CDRといえども元のレコードより良くはなりようがありません。 あるいは、このお客様はもっと音の良いレコードをお持ちなのかもしれません。

今回CDRにした元のレコードは1975年再発の日本盤です。 原盤(オリジナル初回盤)は1961年の発売で英Deccaのものです。 米、日本でも同じ盤が発売されており、モノのレコードもあります。

今回、英初回、再発、米初回、日本盤2種に加え、英、米のモノ初回盤が 入手できましたので、比較してみました。それぞれの盤の特徴を記します。


日本盤 キング/ロンドン SLC2426 1975年
#1


ZAL4941-4G 3C SDLB 1320 F-3
ZAL4942-3L 2D SDLB 1321 F-4
今回CDRの音源となった日本盤です。
1975年の発売です。
(これ以前にも日本で発売されているかもしれません)
実はこの盤は英Deccaでカッティングされたメタルマザー使い、日本でスタンパーを作成してプレスされたものです。
(英でカッティングされた際に付けられる ZAL4941/ZAL4942 というマトリクス記号が送り溝の部分にスタンプされています。)
そのせいか、下の同じ日本盤#2と比べると、音質が大きく異なります。(こちらは日本でのカッティング)
しかも、このマトリクス記号の枝番号は下で紹介する英Deccaの盤とは別のもので、音質もかなり違います。
下の日本盤#2と比べると外見はほとんど同じですが、ジャケット裏の左下に価格表記がありません。その他は全く同じものです。同じ商品なのです。
ある人は「あのレコードは音がよくない」と言い、ある人は「あれは素晴らしい」と意見が分かれてしまう。そういうことが実際に起こり得るということです。

     
              裏ジャケット左下 価格表記なし

日本盤 キング/ロンドン SLC2426 1975年
#2


SDLB0 1320-1
SDLB0 1321-1
こちらは上と全く同じ日本盤です。外観上の違いはジャケット左下に\2,300の価格表示があります。

     
             裏ジャケット左下 価格表記あり
 

盤面のマトリクス記号には英でカッティングされたZAL4941の刻印がありません。これはテープ素材を輸入して日本でカッティングを行ったことを示しています。音質は大きな違いがあります。聴き比べなければわからないことですが、当時問題にならなかったのでしょうか?同じ商品なのにこれほど音が違うというのは理不尽なことだと思います。


英 Decca SDD193  (1969年再発盤)


ZAL-4941-2L 1M
ZAL-4942-2L 21 D1
こちらは英Deccaの1969年に出た再発盤です。Ace Of Diamondというシリーズで廉価盤として発売されたものです。ただ、廉価盤とはいえ、初回盤と同じカッティングのメタルマザーを使って作られた盤ですので、いわゆるリカットとは違います。音質は初回盤に非常に近い、優秀な音質です。
今では初回盤の値段の1/10で買えます。音だけのコレクションであれば大変お買い得といえます。

ジャケットは英盤特有のラミネートが施された美しい仕上げのもので、廉価盤にしておくのは惜しいと思います。上の日本盤のジャケットに使われた写真はこれと同じものです。初回盤とはまた違った趣きのデザインで、幾分貫禄のある(?)ベルガンサの横顔が魅力的です。

このジャケットはステレオ・モノ兼用で、ジャケットの裏にpeepholeと呼ばれる丸穴があり、中のインナーバックが見えるようになっています。青であればステレオ、赤はモノです。

     
                              peephole

     


英 Decca SXL2251 1961年 初回盤


ZAL-4941-2L 1K
ZAL-4942-2L 1U
英Deccaの1961年発売のオリジナル盤です。今回最もよい音質を期待した大本命と言える盤です。

オリジナル盤のなかでも、DECCAのロゴに(Regd.)マークのない1965年以前のレーベルで、更にレーベルにリング溝のある最初期のものです。このことから少なくとも65年以前に製造された盤であることが判別できます。

ジャケットには透明のラミネート加工がしてあり、裏側の耳が折り返された形状のものです。ベルガンサの写真は当時のものと思われ、上の再発盤よりも若々しくて素敵です。

Deccaのステレオ盤にはffssのマークがあり、Full Frequency Stereo Soundとなっています。

マトリクス記号は上の再発盤と同じですが、若いマザーとスタンパーでプレスされているせいか、より瑞々しい音質です。


英 Decca mono LXT5611 1961年 初回盤


ARL-4941-1A 1K
ARL-4942-1A 1C
英Deccaの1961年発売のオリジナル モノ盤です。この頃はステレオとモノが並売されていて、カタログ番号で分けられています。ステレオがSXL、モノはLXTから始まっています。

ジャケットは左上にMONOのロゴがある他はステレオ盤と同じデザインです。レーベルはオレンジ地にシルバーの文字のものです。レーベルにリング溝があることや、マトリクス記号から再初期の盤であることがわかります。
英Deccaでは1955年頃までは金文字のレーベルが使用されていましたが、58年頃以降はすべてシルバーになっています。この盤は61年の発売ですから。このシルバーが初回です。

Deccaのモノ盤にはffrrのマークがあり、Full Frequency Range Recordingとなっています。

マトリクス記号はラッカーの番号が両面ともに1で、最初にカッティングされたものが使われています。

この時期の英Deccaのモノ盤は録音時にステレオとモノの両方の機材を別に用意して録音されているそうです。テープレコーダーもマイクも別のものです。これらはステレオのマスターをモノミックスして作ったものと違い、ステレオ盤と音質が大きく異なることがあります。この盤ではステレオ盤に近いバランスの音質になっています。

ステレオとモノではどちらの方が良いか?好みが分かれるところですが、良いモノの再生装置であればステレオ盤よりも生々しい音が再生できるかもしれません。残念ながら私のところではうまく鳴らすことができませんでした。


米London OS25225 1961年 初回盤


ZAL-4941-2L 1K
ZAL-4942-2L 1N
米Londonのステレオ初回盤です。
米で販売されたものですが、盤は英Deccaの工場でプレスされています。

送り溝のマトリクスも英初回盤と同じで、マザー、スタンパー記号も英初回盤と大差ありません。レーベルにリング溝もあり、英盤とほとんど同時期のプレスと思われます。従って音質は英盤と同じです。価格は英盤の1/10程度ですので、音質だけにこだわるなら大変お買い得です。

ジャケットは米製のものです。英と比べると派手なデザインのものが
多いのですが、この盤でも全く異なるデザインになっています。
好みが分かれるところです。個人的にはこのジャケットも悪くないと思います。

ステレオ盤には派手なSTEREOPHONICのマークが付いています。左側に ffssのマークも見えます。

ジャケットの裏面は下地が青く、高級感があります。


米London mono 5591 1961年 初回盤


ARL-4941-1A 1K
ARL-4942-1A 1B
米Londonのモノ初回盤です。ステレオ盤と同じく、英Deccaのプレスで、こちらも英初回モノ盤と同じマトリクスでほとんど同時期にプレスされたものと思われます。音質も英盤と同じです。

ジャケットにはステレオのマークがなく、すっきりしたデザインです。レーベルには英盤同様、耳とffrrのマークが付いています。

さて、肝心の音質ですが、マトリクス2Lの英盤と米盤は基本的に同じです。
どれも大差なく、加工臭の少ない清楚な音 とでも言えばよいのでしょうか? 日本盤の#1と比べるとすっきり爽やかな音質です。 いかにもベルガンサ27歳の声といった感じで、倍音成分の豊かな、オリジナル盤の良さを感じさせるものです。 前後の距離感、ステージの広さ、奥行きといったものもよく表現されます。 同じ2Lの初回と再発を比べると、初回の方がより良く感じられます。 プレスやビニールの品質は69年製の再発の方が良さそうですが、 マザーの若い初回盤の方が歪みが少なく感じられます。
日本盤#1は、英盤と比べるとレベルが2〜4dB高く、更に中音域が盛り上がった幾分派手な音質になっています。 ベルガンサはメゾ・ソプラノの声域でどちらが「らしい」音かと言えば 英初回盤だと思いますが、#1の日本盤は声の抑揚が強調されていて、マイクの位置が口の近くへ寄ったような感じに聴こえます。 また、ベルガンサの声は英盤に比べると中央に広めに定位します。 英盤と比べると他の楽器の距離感は幾分平面的になりますが、日本盤#1の方が抑揚が派手で、オーディオ的にはこちらの方が楽しめます。

注目すべきは今回CDRの元になった日本盤#1にもZAL-4941の マトリクスがあり、これはイギリスより輸入したメタル原盤(マザー)を 使って、日本でプレスしたことがわかります。盤面にバッキンガムコード(スタンパー記号)の刻印がないことから、スタンパーではなく、マザーを輸入してスタンパーを日本で作成したようです。
このマトリクスの盤は英Deccaのカッティングに間違いなさそうですが、英では発売された形跡がなく、推測ですが、海外(フランスあるいは日本?) 向けにイコライジングしてカッティングしたものではないかと思われます。

日本盤の#2はカタログ番号も#1と同じで値段も同じ。 商品としては全く同じものですが、音質は全く違います。 音源をテープで輸入して、日本でカッティングを行ったものです。 どちらかと言えば、#2は 英盤に近いレンジバランスですが、 倍音成分が不自然で、距離感、瑞々しさが失われています。 技術的なことよりも、元のテープが劣化しているせいかもしれません。

結果的にCDRの元になった日本盤#1よりも音の良い盤がみつかったのか? ということになると、私的には英Deccaのオリジナル盤の方が良かったのですが オーディオ的に楽しめるのは圧倒的に#1の日本盤でした。 初回盤が必ずしも全ての面で最高とは限らないということで、 今回のレコード探しで改めてレコードの面白さ、不思議さを感じました。